滋賀医科大学 名誉教授
小笠原 一誠
北の街から
札幌に初雪が降りました。私は手稲山に沈む夕日を見ながらランニングをしております。滋賀でも瀬田の夕日を見ながらランニングをしていましたが、瀬田の夕日は歴史を加味した独特の趣きがあり、心に深く残っています。瀬田の夕日を見ながら20年の歳月を滋賀医科大学で楽しく過ごさせていただいたことは、とても幸福だったと思っております。
大学に来ていきなり、遠山先生、松浦先生、私の3名で滋賀医大フォーラムを企画運営せよと小澤学長からご指示がありました。何がなんだかわからないままに終わった印象でした。怖い記憶は無意識に消し去られるようで、今でも何をしたのか想い出せません。大変冷や汗をかいたことだけは覚えておりますが、諸先輩の方々には温かく見守っていただいて、無事終えることができました。
印象に残っているもう一つのことは、臨湖庵での教授会忘年会です。石垣が残った格調高い建物で、大広間に座り諸先輩に囲まれて緊張したのを覚えております。臨湖庵は瀬田城の跡地であり、瀬田城は明智光秀の安土への進軍を足止めした城です。私は週末には大学から瀬田川まで走っていましたが、瀬田城跡を通り過ぎる時には昔の教授会忘年会を懐かしく想い出しておりました。ところで、瀬田川からの帰りの登りはいつも死ぬ思いでした。
私にとって幸いだったことは、滋賀医科大学でカニクイザルを使用した実験を行うことができたことでした。実は滋賀医大に来る前にサルで実験できないかと真剣に考えた時期がありましたが、設備等の関係で夢に終わっていました。その後滋賀医大に来るとカニクイザルが目の前に居たので、実験にカニクイザルを使うことをすぐに決断しました。多くの方々のサポートによりカニクイザルのMHC(主要組織適合遺伝子複合体)が解析され、色々な実験に使用できるようになりました。これまでもインフルエンザウイルスの感染実験でカニクイザルの有用性は確かめていましたが、今回のCOVID-19のパンデミックでカニクイザルの感染実験の必要性が改めて確認されました。今後もカニクイザルを使用した実験の重要度は増して行くと思います。ただし、現在サルの供給不足による値段の高騰が問題となっており、何とか側面から援護できないかと模索しております。
20年間の滋賀医科大学での生活で感じたのは、皆さんの真面目さと芯の強さです。この優れた特性に失敗を恐れない冒険心が加われば、さらに滋賀医科大学は飛躍すると確信しています。滋賀医科大学が地域に根ざした医療と人材を創生しつつ、カニクイザルという世界に誇る資源を使用した失敗を恐れない研究をして、世界へ向けて情報を発信できる大学になることを心より願っております。