Cross Talk 開学50周年記念対談
滋賀医科大学の「過去×現在×未来」

#01

歩みをたどり、次代を見据えて

中編 研究・改革の成果がいま、世界で開花

2022/12/26 release

滋賀医科大学 第5代 学長

吉川 隆一 KIKKAWA Ryuichi

滋賀医科大学 第8代 学長(現学長)

上本 伸二 UEMOTO Shinji

令和6(2024)年に迎える開学50周年。
その節目を前に、記念対談の第一弾として開学初期より本学に貢献され、第5代学長として国立大学法人化の流れのなかでいくつもの改革を牽引された吉川隆一先生をお招きしました。
上本伸二学長とともに、これまでの歩みとこれからの大学の在り方について語っていただきます。

Chapter.03
研究をリードする「動物生命科学研究センター」

上本
 吉川先生の学長ご在任中にはさまざまな研究施設が新設され、まさに大変革を牽引してこられたわけですが、とくに動物生命科学研究センターの設立について大変なご苦労があったとうかがっています。
吉川
 センターの設立を最初に考えられたのは前任者の小澤和惠先生で、ちょうど私の就任2年目にあたる平成14(2002)年に完成しました。
当時は霊長類を医学研究に使用する場合、カニクイザルを輸入していたのですが、できるだけ遺伝的に均一なサルを自己繁殖させたいという考えから教授陣や関係各所のご尽力で開設に至りました。
 将来的にはさまざまな疾患モデルの動物をつくりたいという展望をもって各教室で研究をスタートされていたと記憶しています。
上本
 それがいま花開き、アルツハイマーや多発性腎嚢胞など複数の遺伝子改変モデルが確立され、筋萎縮性側索硬化症のモデルの完成もあと一歩というところまできています。京都大学WPI(世界トップレベル研究拠点プログラム)のプロジェクトにも参画しており、素晴らしい進歩を遂げています。
画像:吉川先生
1枚目:顕微授精によりMHC同系サルを人工繁殖※MHC:主要組織適合遺伝子複合体・2枚目:神経難病、精神疾患、癌や新興感染症研究に資するゲノム編集カニクイザルを作成するための基盤技術を開発する研究
吉川
 初期の目的が達成されつつあるのはうれしいことです。
日本国内で数少ない施設であり、しかも均一な遺伝子をもつ霊長類を保持していることで、ほかの施設の研究者たちからも注目され、活用されていますね。
上本
 このコロナ禍では、滋賀医科大学の研究としてカニクイザルの新型コロナ肺炎のモデルを確立しました。これをもとに他施設との共同研究で新しいワクチンや治療薬の開発に取り組んでいるところです。
吉川
 先日新聞で拝見しましたが本当に素晴らしいことです。
今後もさまざまな感染症が起こるなか、新型コロナで行われたような対応が素早くなされれば、人類にとって非常に役に立つ成果が得られるでしょう。
動物生命科学研究センター

Chapter.04
改革の成果がいま、世界で開花

上本
 カニクイザルによる新型コロナ肺炎モデルについては、ほとんど人間と同じ反応を得られています。
今は緊急事態のためワクチンなどは早々に臨床実験となりましたが、カニクイザルで臨床前に成果を出すことがやはり理想です。
吉川
 将来、どんな感染症が流行するかはわかりませんので準備は重要です。
とくに今回の新型コロナウイルスについて滋賀医科大学が保有するカニクイザルを用いて研究を重ねられていることは、将来的に貴重なデータになるはずです。
上本
 遺伝子改変の疾患モデルについては、神経難病のほか、本学の先端がん研究センターでは、がんのモデルも確立され、アジュバント効果(※)を求めるがんワクチン研究も臨床に近づいています。

※アジュバント…
ワクチンに添加、混合又は同時投与することによって、その有効性を増強させる物質・成分の総称。

 

滋賀医科大学における動物実験等の実施に当たっては、科学的合理性、動物愛護への配慮、環境の保全及び教職員・学生等の安全確保のため、動物愛護法及び飼養保管基準に則し、動物実験等の原則である代替法の利用、使用数の削減及び苦痛の軽減の3R (Replacement, Reduction,Refinement) に基づき、適正に実施することを規程に定めています。また、動物実験は、動物実験委員会の審査を受けて承認されて実施しています。なお、平成16年度から、動物実験認定制度を全国に先駆けて導入し、講習会の受講、実習を経て認定試験に合格しないと実験することができないライセンス制度となっています。

 

新型コロナウイルスを感染させたサル

X線写真で肺炎を確認

新型コロナ動物X線撮影

上本
 もう一つ、今後の展開として期待しているのは、先生が学長ご在任中に設立に向けてご尽力されたNCD(非感染性疾患)疫学研究センター(旧アジア疫学研究センター)です。
 東南アジア諸国が豊かになって長寿化するなかで、成人病が爆発的に増えてきています。そこで今後はアジアから留学生を迎えて共同研究するだけでなく、日本人の研究者が東南アジアへ赴いて現場で研究することが重要になってくるでしょう。
 本学ではすでにそのための土壌ができており、来年度からは本格的な大学院生の共同教育としてジョイント・ディグリーあるいはダブル・ディグリーのプログラムを完成させたいと考えています。
吉川
 国際交流は与えるばかりではなく、一緒になって研究することが大切です。こういった国際協調のあり方というのは非常にいいと思います。
上本
 私たちが現地で一緒に学ぶことで、かたちだけではない本質的なジョイント・ディグリーあるいはダブル・ディグリーを実現できるのではないでしょうか。
吉川
 今は新型コロナの流行下ということもあり、感染症が話題になっていますが、アジアを含めた世界の多くの人たちにとって心臓病や脳卒中、糖尿病といったNCDは大きな課題です。
 それらを解決するための方策をアジアが一体となって考え、答えを見つけ出していくということは大切ですね。
NCD疫学研究センター
図:NCD疫学研究センター

吉川 隆一 KIKKAWA Ryuichi

昭和38(1963)年大阪大学医学部医学科卒業。同大学第一内科入局後、昭和46(1971)年米国ケース・ウェスタン・リザーブ大学内科フェロー、昭和48(1973)年スイス国ベルン大学内科フェローを経て昭和50(1975)年大阪大学医学部助手。昭和54(1979)年より滋賀医科大学第三内科講師、昭和62(1987)年同大学第三内科助教授、平成7(1995)年同大学第三内科教授を経て、平成13(2001)年に本学第5代学長に就任(平成20(2008)年3月31日まで)、同年4月に本学名誉教授となる。昭和55(1980)年ベルツ賞、平成13(2001)年日本糖尿病合併症学会賞、平成16(2004)年日本腎臓財団学術賞、平成19(2007)年日本糖尿病学会坂口賞を受賞。日本糖尿病学会理事、日本腎臓学会理事及び会長、日本糖尿病合併症学会会長を歴任した。現在は公益財団法人滋賀医学国際協力会理事長、滋賀県健康医療福祉部参与。専門分野は内科学(糖尿病学、内分泌代謝学、腎臓病学)。

吉川 隆一

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